酔っ払いプレイボーイたちの戯言
陸奥×西園寺のようなそうでもないような。プレイボーイだから成り立つカオスな会話。飲み会のノリです。というか、伊藤閥は全体的にいつもこんなノリです。
とりあえず、敬語は西園寺。
***
とある日の、ある料亭の一室を貸し切って行われた飲み会での話。元勲総出、というかむしろ政府重役総出のようなメンバーでの開催だが、元が酒好きの集まりなので、格式など有ったものではない。一部の酒に弱いメンツは既に夢の中だ。
そんな中での、ある酔っ払い2人の戯言である。
「ねーえ、プリンス西園寺。もしさ、俺とお前に子供できたらすっごい美人になると思わない?」
ワイングラスを傾け、ぼーっと陸奥宗光が隣の西園寺公望にだれかかる。驚いたように、公望が顔を上げた。
「いきなり何です。…いい加減お水にしておいたらどうですか?」
「いや、酔ってねぇよ。…酔ってるか。酔ってるんだけどさ、そんな意識が混濁するほど酔ってないから。理性はある」
「へぇ、じゃあ理性がそれ語ってるんですか」
「そうだよ。…だってさ、そう思わない?俺たちって割と顔の系統似てるじゃん」
「系統?」
「そう、系統。木戸様とか伊藤さんとか、従道さんみたいのとは違くってさ」
「色白で細面、といったところでしょうか。確かに、チャラくは無いし軍人肌な顔でもないですね」
「軍人っつっても山縣さんみたいのは別だけどな」
「あの方はね……あれ、山縣さんまだ飲んでる。随分お強いんですね。しかも……ワインと芋焼酎のちゃんぽんですか」
「前に一緒に飲んだ時、どんなに飲んでもほろ酔い以上には酔えないのだよ、って言ってた。んで、酒なら何でも飲むんだって」
「へぇ、存外馬鹿口…いえ、止めておきましょう。で、なんでしたっけ。貴方と私の子供?」
「『俺とお前』の子供。」
「……私に孕めと」
「そういう生物学的なことは置いといて。遺伝子的にさ、相当凄いのが出来ると思うんだけど、どうよ」
「生物学的な問題だけじゃあないでしょう」
「………」
「…………」
「…分かったよ、どっちでもいいって。で、だ。」
「……清華の家の者には、なかなか妙な髪や瞳の色の持ち主が多いんですよ。私のこの色も徳大寺の遺伝なので、どうでしょう。貴方の血と混ざったらどっちが出るんですかねぇ」
「そりゃぁ出来ればお前のが欲しいよ。銀髪、瞳は紫、なかなかいるものじゃないし」
「あら、そうですか?貴方のその目の色も、なかなか珍奇だとおもいますが」
「珍奇って……」
「千歳緑……松葉色?麹塵?クロムグリーン、スピナッチグリーン…と、そんな所ですかね」
「西洋の色だけじゃなく伝統色にも明るいんだ。にしても珍奇は取り消せ。お美しいと言え」
「一応公卿ですからね。良いと思いますよ、緑も。大変お美しい」
「……。でも、銀なら断然紫だわ、やっぱ」
「色素欠乏の間取って青になったりしたら面白いですよね」
「あー。ならアレか、俺の髪の色が移った方が綺麗かもな。茶色」
「茶に青・・・そうですねぇ。あ、でもいっそそこも色が混じって金になったとか言ったら」
「やめwwwやめろwwwどこの山縣さんだ」
「あ、でも顔のパーツはあまり私たち山縣さんには似てませんから、顔自体は似ないかと」
「いやwwそれはそれで、俺たちの子供が山縣さんwwありえねぇ、でも、あー可笑しい」
「そんなに可笑しいですか。…ただ、どちらに転んでも美形になるのは確かでしょうね」
「うん、そうね、…ふっ」
「まだ笑いますか」
「いやいや、笑わない。笑わないよ。……他はどう?見た目だけじゃなくてもさ。なんか能力的にも」
「そうですねぇ…まず、語学には長けることになりそうですね」
「お前フランス語ぺらっぺらだもんな。俺は英語で、って?」
「ええ」
「美人で、挙句トライリンガルで……。口も立つだろうし、外交官向けだな」
「礼儀作法も叩きこみたいですよねぇ。きっと、官位だって爵位だって悪くないの貰えるだろうし」
「お前んち側で引き取るなら、公卿ってことになんのか。西園寺……」
「あ、でも私正室は持てないルールなので、非嫡出子扱いになっちゃいますよ」
「何、その妙なルール」
「西園寺家の決まりです。となると、貴方の家に引き取ってもらった方が良いのかもしれない。そうすれば堂々と名字名乗れますしね」
「だったらお前がウチに嫁に来た方が早くない?お前は西園寺の名を捨てることになるけど、そうすれば問題ないだろう」
「ええ、まぁ…『降嫁』に近いような扱いになってしまうので、色々そこら辺調整しないとですけど…」
「三条様あたりに頼めばどうにかなるんじゃん?わりかしあっさりとさ」
「だったら面倒なので主上に直接申し上げてみますよ」
「え、できんのそんなこと」
「幼馴染、のようなものですから」
「何、妬けるなぁ」
「馬鹿言わないでください」
グラスの白ワインを呷り、公望が笑う。つられて、宗光も笑った。
酔っぱらいの数がピークに達し、黒田清隆が抜刀し始めた、ちょうどそんな頃の会話だった。
*****
一方、外野では。
「何なのだよ、あいつら…!」
ダンッ。
「いや、こら落ち着けって有朋」
「阿呆、落ち着いてなどいられないのだよ!何なのだ、付き合ってるのか!?陸奥も、西園寺なんか特に、もう少しまともな奴だと思ってい た の だ よ !」
「いや、俺はあの2人をまともだと思ったことは無いぞ」
「馨、お前もか!」
「ブルータスじゃねぇよ。ほら有朋、もう酒はよせ。酔ったんだ」
「だって、男同士で、付き合うことについては別に異存はないが、にこやかに平然と子供いたらとか普通そんな話するかァ!?」
「よほど愛が深いか、よほど変態かのどちらかだろうな」
「ああああ」
ぐしゃぐしゃ。
「もう、何なのだよ!」
こだまのように響く悲痛な叫び。そこに油を注ぐように、件の2人の上司である、これまた好色家な男が一言陽気に呟いた。
「でもさ、前あいつらに『お前ら付き合ってんの?』って聞いたら、笑顔で『何の冗談ですか?』って言われたよ?」
「・・・!!」
ガッシャン。
「……って、山縣!?」
「ちょ、有朋、おいこぼしてんぞ!」
「・・・!!!」
「あ、駄目だ、固まってるよ」
「有朋!グラス倒したままフリーズすんなッ!」
「付き合ってもいないのに……あの台詞か………!?」
「…あー、うん。いつも仕事場でもあんな調子だから俺が慣れてただけなのかな。陸軍にあんな遊び好きいないもんね」
「有朋!軍服濡れてるぞッ!」
「……!」
「おい、いつまで驚いてやがる、有朋、有朋ォ!」
その晩、皆が酔って寝静まるまで、顔に傷のあるいかつい元外相の叫びは続いたそうな。ちなみにそれから西園寺家と陸奥家の間での婚姻話は上がっていない。
ある、飲み会での話である。