その先にあるものは
Log Outers過去話第2弾は佐竹美桜。R18G、かな?
ごとっ、と、右腕が飛んで、壁に当たって落ちた。血がでて、俺は立ち尽くす。痛い。叫びたいのに、声が出ない。
出血がすごいから、とかそんな理由じゃないのはすぐに分かった。
心が、麻痺してるんだ、俺。
「う、ああああああああ、ああああ――――――ッ!!!??」
父親が、悲鳴を上げた。それすらも、遠くに感じる。
闇の帳が降りてくるのを感じながら、俺は涙をこぼす瞳を閉じた。
元から、気が合わなかったのは確かだ。父親は、俺と同じ能力を代々受け継ぐ母さんを愛している素振りを見せつつ、その能力を持つが故に俺を疎んできた。
母さんのいないところで何度も大喧嘩をした。だったら俺なんて作らなきゃよかっただろと言ったら、別にお前が良かったんじゃない、たまたまお前だっただけだと言い返された。
3歳の妹の美夜子はまだ能力の有無を判別する儀式を行っておらず、そのせいか父親にも愛されていた。きっともう少し大きくなって能力があると分かったら、美夜子も俺と同じように捨てられるのだろう。俺は美夜子が大好きだったから、もしそうなったら俺が父親を殺すつもりでいた。そして俺が幸せにしてやるんだと、心に決めていた。
なのに。なのに。
「・・・・・・・・」
何で。何であんたじゃないんだ。
何で、母さんと美夜子が。
「・・・・・・ねぇ」
いきなりだった。今日はいつもより、喧嘩がヒートアップして。
言われたくないことを言われて。
『この化け物が』
最後、胸の一番脆いところに突き刺さった、一言が皮きりで。
いきなり俺の能力が、暴発したのだ。
「なぁ・・・なんであんたじゃないんだ・・・・・」
足元に、禍々しいほどの赤に輝く魔法陣が浮かび。
「何で・・・・・・」
忌々しいあの文字が、空間に浮かんだ。
「なん、で・・・・・」
母さん、美夜子、と心の中で呟いたその瞬間。
ぷちゅっ。
「何でだよッ!!!何であんたじゃなくて、母さんと、みや、こ、が・・・・ッ!!!!!」
漸く、追いついてきたのか。煮えたぎるような憎悪が、行き場を失った悲しみが、そして、己の身を抉るような自責の念が。
噴き上がり、全てを灼き尽した。理性、感情、全て。
「あ゛あ、あ、ああ、ああああ――――――――――ッ!!!!!!!!!」
“母親と妹だったもの”を背に浴びて。代償として、右腕は発破されたかのように吹き飛んだ。噎せ返るような血の匂い、一面赤く染まった天井や壁。そこに思考や意味なんて無い。
ただ、気が狂うのに任せて俺は叫ぶ。
「ああああああ、母さん、みや、こ、ああああああああ――――・・・ッ!!!」
両腕を上げて頭を抱えようと思ったら、右腕が無かった。切断面、骨まで見事に断ち切られていて、その滴る血を見て更に叫ぶ。
父親が、顔に母さんや妹の破片を付けたまま外に飛びだしていった。訳の分からないことを口走っていたが、それは俺も同じだろう。このまま死んでしまえ。このまま消えてしまえ。そう祈り、念じ、請い願いながら、膝をついた俺は、その場に倒れた。
「やだ・・・・おれ、しらない、こんなのしら、な・・・・・みやこも、かあ、さんも、・・・・死んで、みんな、しんで、ない・・・・・・」
血溜まりの中に顔を突っ伏し、俺は涙を流し続ける。皆みんな混ざり合って、朦朧とした俺の意識は、そのまま途切れようとしていた。
ふと。
誰かの声が、消えつつある視界の端に掠った。
『――――!!――――!!?』
だれ。
あんたじゃない、よな。
死へと至る道の途中。
虚ろに、視線を向ける。
『美桜、美桜ッ!!』
「ほー・・・・・せ・・・・?」
まさか。
答えなど知る由も無く、俺の意識は、死へと急速に落下していった。