花より団子、より花?
宗茂王子×忠興貴公子。(王子貴公子のネタは公式より)
若干閨ネタの発言あるので注意。宗茂の天然王子っぷりに忠興が撃沈する話。
桜の咲く、縁側。屋敷の主である細川忠興は、7分咲き程度に開いた桜を見ながら、突然3色団子30串を引き連れてやってきた立花宗茂と共に、静かな午後を過ごしていた。
はずだった。
「忠興君はさー」
「なんだよ」
「本当に口が悪いよねー」
「ブッ・・・・・」
唐突に言われた内容に茶を噴きそうになった。いや、割としっかり噴いた。
「な、何だよいきなり」
げほげほと咳き込みながら、忠興は隣で団子を食べ続ける宗茂に叫んだ。確かに口が悪いのは自他共に認めるが、それにしても長閑な小春日和、前置きも無しにいきなり何なんだ。
しかも、付き合い始めて数か月の恋人からの一言である。忠興が狼狽えるのも無理はなかった。
かと言う宗茂の方は、何食わぬ顔で団子を食べ続けている。毎秒二本という超人的なスピードで、傍から見ると口を開けた瞬間団子が消えているようにも見えた。
「うーん、前に忠興君のお父さんに会ったときに嘆かれたからねぇ。君はよくあんな奴と付き合ってられるな、って」
「ほっとけ」
そこら辺は、いくら宗茂が恋人だとはいえども、あまり立ち入られたくない問題である。これが、口が悪いと言われる原因の一つなのだろうな、と内心思いながら、忠興は吐き捨てた。しかし、もがもがと串団子を食べ続けながら宗茂は止まらない。
「慇懃無礼の中でも無礼が表だって出過ぎとも言ってたなぁ」
「うるせぇ」
「特に黒田君にはいつも喧嘩腰だよね」
「あれは不可抗力だ」
「あ、石田君の事も嫌いだったっけ。忠興君は一見優等生な癖して、ああいう典型的な優等生は嫌いなんだよねぇ」
「別に・・・っ」
「豊家の家臣達にもなんだか物言いが刺々しいし」
「仕方ねぇだろ」
「後の息子さんへの手紙にも色々アレな事書いてるみたいだ」
「え・・・歴史を先取りするのはアリなのかよ筆者ッ!」
「『念の入り過ぎ候衆』とかすごいや」
「だから先取るなっての!」
「『年取ってからの国替えは普通に迷惑だけどな!こっちの事も考えろよ!』」
「筆者!筆者!」
宗茂の発言に時系列までもが狂ったらしい。というか将来国替えになるのかウチは。
というか。あのじじい何余計な事喋ってんだよ、と言うのは置いといて、流石にここまで言われたとなると、黙っている訳にはいかない。
「そんな捻くれ者の所にわざわざ、団子まで持って来てるのはどこのどいつだよ」
別に拗ねた訳ではないが、売り言葉に買い言葉のようなものだ。ぶすー、とそう返すと、一瞬団子を吸収する手を止めた宗茂が、何か勘違いしてるみたいだけど、と前置いて言った。
「別に悪いなんて一言も言ってないじゃないか」
「はぁ?・・・・、いや、でも」
「寧ろそういう所が好きなんだよ。忠興君」
えええ、と普段冷静(?)な忠興にしては珍しく動揺した。さらり、全くそんな気配を感じさせない場面で、いきなりそんな事。
宗茂はゲフー、と団子の串を皿に置くと、にっこりと笑った。最後の一本は譲ってくれるらしい。食べ物に遠慮を見せないのは遺伝的なものらしく、今日彼が買ってきた団子30串のうち4分の3ほどを平らげていた。
「じゃあ、列挙してあげようか」
「はぁ?」
「僕が好きな忠興君の特徴」
「特、徴・・・って、え」
ちょっと言い返すつもりで言った一言が墓穴。見事に狼狽えさせられている忠興である。しかも、性質の悪いことに宗茂は天然自然だ。意地悪をしようとかそう言った意図は一切なく、純粋に自分は忠興のどこが好きなのか、それを並べようとしている。
ちょっとストップ、と止めるが、遅かった。
「例えば、やっぱりそのプライドかなぁ。恭順の意を見せてるように見せかけて、むしろ相手を見下してるところとか好き。でも丁寧な時はすごく丁寧なんだよね。
不機嫌そうな顔も好き。いつもの忠興君。でも時々唖然としたり、嘲笑以外で笑ったりもするでしょ?それを見るたびに、くらっとしちゃうよね。たまにしか見せてくれない顔だっていうのもあるんだろうけど。あ、もちろん嘲った顔も好きだからね。それでもって、ちょっとだけ雰囲気に影が落ちる瞬間があるけど、ぞくっとする、あれは」
「な・・・おい、ああもう分かったから」
「すごく嫌味なことを言ってもそれが下卑た感じにならないのは、やっぱり血筋が良いせいかな。言動一つ一つに気品が滲み出てる。これを言ったら多分君は怒ると思うけど、お父さん譲りだよね。やけに皮肉っぽいから、逆にその本音が聞きたくなるのも魅力。
戦場と言うよりは政界で輝くタイプだと思う。世渡りの上手さは本当に尊敬できるよ。それゆえに警戒されちゃっている所とかも可愛い」
「可愛・・・って」
ぼふっ、と顔が燃えたのが分かった。照れているというより純粋に恥ずかしい。
「見た目のことを言うなら、立ち姿がいいなって思うよ。忠興君かなり細身だからさぁ、その髪型、良く似合ってるんだよね、身体つきと。
髪質も最高だし。指で梳いても絡まない。しかもちょっとだけうなじが見える位置で縛ってあるから、――さらに言えばタートルネック着てるのもあって――禁欲的なんだか誘ってんだか分からないような、凛とした危うさ、とでも言えばいい?そんなのを感じるよね。ともかく、好き。
肌も白いよね。キメが細かくて、荒れてるところなんて見たことも無い。
全体的に作りが華奢だとは思うけど、手によく出てるよね。細くて綺麗な指。爪もちゃんと整えてあって、清潔好きなんだな、っていうのはよくわかるよ。
所作もすごく美しいね。茶を点てていても花を活けていてもいいけど、普通に立って歩いてってしているのだけで充分見惚れる。
あとは・・・」
「待った、もうやめろ!本当に・・・もう、分かったから」
「え?」
頭が沸騰寸前だった。まるで目が回ったように何も考えられなくなって、ただひたすら、顔が熱い。それを見られたくなくて忠興は、ずい、と最後の団子が乗っている皿を宗茂の方に押しやった。わーいくれるのかい?と子供のような歓声。何でもいいから食え、とやっとの思いで返すと、団子は0.5秒掛からずにあっという間に処理された。真剣に、宗茂の構造は謎である。
忠興は褒められることに慣れていない。つまり愛され慣れていないのだ。だから、こういった惜しげのない本心からの褒め言葉には、戸惑い、恥じて黙るしかないのである。いつものように言葉を口先で踊らせることができなかった。
はぁ、と何とか言葉を飲み下そうとしていると、あ、そうそう、と食べ終わった団子の串を皿に置きながら、宗茂が笑いかけてきた。今度は何だ、とげっそりと忠興が見返すと、そのままの爽やかな笑顔で宗茂が、
「言ってなかったけど、もちろん夜聞かせてくれる声も、好きだよ。元々の地声も好きだけど、ちょっと甘さが入って高くなったのがまた、たまらない」
ちゅど――――ん。
ミサイルどころかICBMが突っ込んできたやがった。予告なしに。
「・・・・・・・」
完全ノックアウト。思考が一撃で粉砕された。何て事を、こんなにもあっさりと、言ってのけてしまうんだこいつは。
今度は恥ずべき間もなく、あ、木の下に毛虫、と縁側から離れていってしまった宗茂を横目に、忠興は顔を覆って一人、後に九州随一と賞される王子からのとどめの一言に身悶えているのであった。