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​可愛らしい貴方に

ゲストルームは本来クラウスに割り当てられてる部屋ですが、物壊すと危ないので今は鉄格子の小さな部屋です。いずれ安定したらそこがクラウスの部屋になるかと。

​ヴィルヘルムさんをお借りして、R18です。似ませんでした(すいません)

 私が彼との逢瀬の時に使うゲストルームには、隠し扉や見えない収納が幾つかある。その中のひとつ、天井まで届く本棚の一角に隠された引き戸の中には、まだ未開封の避妊具が一箱、入っていた。

 私の恋人は大変冷静な人だ。喧嘩になりそうなときもーーまぁその喧嘩の原因はほとんどが私なのだがーー、冷静に説かれて気がつくと納得してしまっている。あとはお仕置きがてら体を重ねれば、もうそれが仲直りだった。いつも、こんな感じで。
しかし、これは最初から、初めて出会ってまだプラトニックな付き合いだった頃からそうだったのだ。だから、いざセックスをするような雰囲気が近づいてきたのを薄々感じたところで、避妊具を用意していたのである。きっと、”正しい”彼のことだから。オーソドックスに進むのだろうと・・・その予想は見事に、裏切られることとなったのだが。

***

 


 無着衣。手首は彼のネクタイで縛り上げられ、更にベッドの柵に固定されている。まだ時間は午後のティータイムの前だというのに、カーテンも全開のまま、一人で遊んでいたおもちゃを今度は彼に突っ込まれ、私はかれこれ30分は達することを許されずにいた。理由は簡単、明日まで仕事でこっちにこれなさそうだというヴィルさんが、早めに切り上げられたとかで予想外に早く屋敷にやって来たのだ。そして、私は・・一人遊びに興じていた真っ只中というわけで。体磨きは、美容のためにも感度をあげて保つ為にも重要だ。それに、別に不貞をはたらいていたわけでもないのだし。・・とまぁそんな説明というか言い訳を必死にしたのだが、聞き届けられるわけはなかった。ということで今私は、達する寸前まで中を抉られては寸止めされ、そしてまた追い詰められてはやはり寸止め、というのを繰り返されているのである。手が縛られている以上、自分で前をさわるわけにもいかず、いくら私自身自他ともに認めるマゾヒストだとはいえ、今の状況はまさに地獄だった。
「はっ、ァ、ぁ!やっ・・も、おねがい、赦して、ェ」
「許す?何を?別に僕は怒ってはいませんよ。貴方が、こっちの方が好きだと、それだけのことでしょう」
「ちがっ、・・っぁ、も、いく、だめっ、あ、イッ・・・っう!!」
 頭が真っ白になって、叫びそうになって、体はもう、というところでまた手を止められた。宙に放り出されるような覚束無い半端な感覚に、達せぬまま私はがくがくと体を震わせる。
 何とか機械的に振動している玩具の微かな感覚を掴んで達しようとしたら、スイッチを切られてしまった。そして、わざと中の際どいところを掠めるように、抜き取られる。
 実はそれ、貴方の形を思い出しながら作ってもらった特注品なのだけれど。捨てないでほしいのだが・・ああ、サイドボードの上に投げ捨てるように置いてくれた。結局、怒ってはいるものの優しい彼なのだ。それか、単に人のものを勝手に捨てるほど鬼ではないと言うだけなのか。
 なんにせよ。
 散々泣かされ涙で霞んだ視界に、彼の、獰猛な色気を宿した瞳が見える。おねがい、貴方の、ちょうだい。そうすがり付くと、彼はため息をついた。
「全く・・入れば何でもいいんですか、貴方は」
「ちが、そんな、・・あなたのが、いいの、あなただけ、ですから」
「・・・」
 もう、早くイかせてほしくて、恥も外聞も考えている余裕なんてなかった。足を彼の腰に擦り寄せ、精一杯煽る。仕方ないですね、と、彼が私の片足を持ち上げた。無論、避妊具などつけていない。
 先が、触れる。ぐっ、と、押し込まれる。
「っ、は、ぁ・・・っ!」
 声が、漏れる。もう限界などとうに超えていた私は、彼が内壁を擦る度に達していた。ようやく全て収まった頃には腹の上は溢した体液でぐちゃぐちゃでベッドにも流れている始末で、それを見て「どれだけイったんです、まだ入れただけでしょう?」と呆れ混じりに呟く彼の目に、また欲情して私は中を締め付けた。
「アっ、も、うごいて、早く・・!」
「そうしたらまたイってしまいますよ?」
「いいから、いい、から・・!」
 自分から腰を揺らすようにして、ねだる。浅ましいとさえ思うが・・まぁ、薬も入っていないのにこんな風になってしまったのだから、いまさら何を取り繕ったところで無駄だろう。仕方のない人ですね。そう言った彼は――無意識だろうか、微かに笑っていた。まれに見せるような優しい笑みではない、まるで、絶対的支配権を持つ、王者のような。
 ああ、貴方も、男の子なんですね。
 綺麗なだけの、人形なんかじゃない。優位性を確認した、王様の顔。
 緩い動きが、段々と激しさを増してくる。私は、彼の腕に頬を寄せ喘ぎながらも、どこか彼を、可愛らしいと感じていた。無論、主導権を握っているのは彼だから、私に余裕なんてない。けれど、そうじゃなくて。冷静な彼の、冷静でなくなった一片の感情が。ほんのうっすらとかいま見える、彼の獰猛な支配欲や、性欲が。まさにこれも、私の優越感のひとつなのだろうか。彼のこうあった顔を少しでも覗けるのは、恐らくこの世界では私と、ご兄弟くらいしかいないのだろうと、思うと。
 彼が、私の体に溺れている。私の体を、喰い散らしている。上品に切り分けるでもなく、冷徹に解剖するでもなく。頭からまるごと。私を、彼は食べているのだ。
 かわいい。愛しい。そんな感情が氾濫して、――私はそんな自分に驚いて、また達した。まだですよ、とうっかり気絶しそうな意志が引き戻され、私は体を、再び突き上げられる。そう、未開封の避妊具。彼は、至って真面目で私なんかより遥かに”正しい”ような顔をしながら、初夜から避妊具など使う気配すら見せなかった。それは多分、私が男だから、という訳ではない。全部注がれ、まるで孕まさせられるかといっそ怖くなったほどのあの夜・・あのとき、こういわれた気がしたのだ。
『貴方はもう、僕のもの、ですよね?』
 彼はいつでも”正しい”。だから、彼の言うことも正しいのだ。そう、避妊具など要らないでしょう。だって、貴方は僕のものなのだから。彼がそう言えば、それが正しくなるのだ。私は恍惚とした。彼が正しいのだと、全て理解した。そして、きっとこれからも私は彼とならば、と、酷く安堵したのだった。

 

 


 小さく声を上げ、彼も何度目か、達したようだった。その間私は幾度となく気絶しかけただろうが、それさえも今は酷く心地好い。大丈夫ですか、と頬を撫でられる。一応ええ、と答えたつもりではあるが、多分声にはなっていないだろう。せめてもの返答にと、私はそっと彼の手に自分の指先を重ねて目を閉じた。

 本棚の奥の隠し棚。そのなかには、まだ彼の知らない秘密の小箱がある。あれも使用期限があるというから、そろそろ処分しないといけないかもしれないが、だとしても・・新しいものを買う必要はきっとないだろう。もう、私は彼の正しさに染まりきっているのだから。彼のものである私。私のものである、彼。素敵だ、まるお伽噺みたいに。永遠に続けばいい、この二人だけの、誰にも邪魔できない楽園のような世界が。窓から差し込む陽の光が閉じた瞼の裏で輝いて、まさにそこは天国のようだった。
 申し訳ないが後始末はお任せすることとして、とりあえず、少し眠りたい。私は、凛々しくも可愛らしい恋人に身を任せ、ふっと意識を手放した。

 

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