酒には強いはずだったんだけど
ジャックさんとテオドールのエンカウント直後の妄想。ジャックさんお借りしてますが再現が甘くて個人的に恥ずかしいやつです。
一応、こう見えても血筋はドイツ系である。だから、酒には強いと思っていたのだけれど。
朦朧としだした意識。目の前で笑みを浮かべる、男。冷たい床に横たえられて上体だけを軽く起こされた身体は、火でもついているんじゃないかというくらいに熱かった。
座った男の膝の上に抱きかかえられ、―――重くだるい体は動かせない。もう抵抗云々のタイミングはとっくに失っていて、俺はされるがままになっていた。
「ねぇお医者様、気分はどう?まだ元気そうだね、目の焦点がはっきりしてるもの」
じゃあ、もう一杯、イケるよね。呆然と見つめた先、男が目を細める。そして後ろを振り向いたかと思えば、またアレだ。手に持っている、小さなショットグラス。中で透明な液体が揺れている。
「駄目・・だ・・・・もう、むり・・・・ッ」
「大丈夫だって、まだ喋れるんだからさ。全然無理そうに見えないよ、お医者様。じゃあほら、きちんと零さないで、ね?」
ほら、とグラスを口元に近づけられる。腕で押しやりたいのは山々だが、無理だ。結局そのまま、軽く口を開けられて、液体を流し込まれる。熱い。痛い。頭が、喉が、臓腑が、灼けて、思わず俺は咳き込んだ。
「けほっ・・・、う、あ」
「はい、よく飲めました。凄いや、顔赤いね。とてつもなく色っぽいよ、お医者様」
よしよし、とあやすように頭を撫でてくる男の、空いた手に握られているのは純正のスピリタスの瓶。アルコール度数は確か96%――あんなの普通にしたって相当水で薄めてじゃないと飲めたものではないというのに、男が握っている500㎖の瓶はもうほとんどが空だ。ああ、そりゃあこんな風にもなるわけだな。というか、あんまり飲ませられると急性アルコール中毒で死ぬかもしれないんだけど。・・・そんなことを脳の片隅で考えていると、いきなり抱き起こされた。がくっと頭が落ち、すぐさま支えられるもわんわんと響くような脳の揺れが止まらない。不思議と吐き気がないのはそこにだけドイツ人の血が発揮されているからなのか。・・・まあそれはいいとして、ともかく。
「ねぇ、キスしてもいいかなぁ。いいよね、というか抵抗なんて出来る訳ないか」
この有無を言わせない強引な姿勢。今一目の笑わない笑顔が近づいてきて、唇が重ねられる。呼吸を奪われて、この酸欠感。息苦しいのは先程からだから別に気になりはしないが、いいように口の中を犯されて、思考がまとまらない。こっちの方が勘弁だ。
「・・・・・っ」
唇が離され、ぼやけた視界が急に動く。横抱きにかかえ上げられ、ちらりと目を流せば向かう先はベッドか。こんな昼間から、随分と若人はお盛んなことで。もっと容姿が醜ければこんなことにはならなかったのかな、などと余計な方向に頭が寄り道する。
俺、酒は強かったはずなのになぁ。歳だからかな。もう控えろ、ということか。
存外綺麗な部屋の、柔らかいベッドの上。転がされながら俺は、監禁生活8日目を迎えようとしていた。