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言霊の話

薫ちゃん、京都時代の話。同じクラスのモブが不思議な力を得て、薫ちゃんにアタックします。結局腹黒いのは誰でしょうか。いつでもイケメンはモブの敵・・

 朝。何の変哲もない、朝。もしこの世界が小説の中だったのだとしたら間違いなくモブキャラ枠筆頭になれそうな俺、中村実は、ルーティーンのように7時45分きっかりにアラームにたたき起こされた。

 京都のちょっと市街地から外れたところに一軒家、俺の自室は四畳半。まぁ、通っているのは割とここら辺でも有名な京都冷泉大付属高だし、そこそこ己のクオリティ・オブ・ライフ(最近保健体育で習った)は高い方と自覚してはいる。だが、いくら生活の質がよかろうが所詮はモブ、主役になれないままモブとしての質が上がっていっているだけなのだ。いうなればクオリティ・オブ・モブの向上・・・・質の良いモブ?そう、例えば学園物の漫画でクラスのマドンナをちらちらと頬を染めてみているような背景的モブ―――その少し質が高いもの、というだけで。ああ、悲しいな。そこそこの友達と存在しない彼女に囲まれ、今日も俺は名前だけはやたらキラキラした高校時代のひとひらを過ごすことになる。

 こんなことをつらつらと語っているうちに、時計の長い針が10をさしそうになっていた。いい加減、着替えて朝ごはんを食べないとまた母さんが怒る。結局こんなところでも俺はモブだ。お召替え専用の係がいたり、ルームサービス的な何かがやってくることはない。となると、世界中でもそんな人種数パーセントしかいないのだろうから―――もはやセレブリティとはモブの為にいるのではないか、いや、セレブリティこそこの世の異端児なのではないかと、そんなことさえ思ってしまう。

 ああ、ほら、別に寒くて布団から出られない季節でもないのだからさっさと布団から出よう。そしてあの無駄に高かった制服に袖を通し、朝ご飯食べて、お弁当持って、電車と地下鉄を乗り継いで学校に―――――

 

 

 はらり。

 

 

 

「は?」

 

 何故か知らないが布団から出たがらない自分を叱咤激励していると、不意に、目の前に紙が落ちた。手のひらサイズに四つ折りにされた小さな紙。――千代紙くらいのサイズと言えば伝わるだろうか、コピー用紙に何やら書いてある。

 のそっと体を起こした。紙を開く。正方形の紙の真ん中に、ポツンと明朝体で一言。

 

『言霊って信じる?』

 

 ・・・・えっと?

 唐突にコピー用紙に語り掛けられ、困惑した俺はまぁ、信じるっていうか、昔はそういう人いたらしいですよ、と語り返す。すると、別に追加の紙が降ってきたりは、・・・・しないのかよ!!

「・・・・何やこれ」

 いや、冷静に考えれば目の前にひらひらと紙が落ちてくること自体可笑しいのだけれど。でも今はそれどころじゃない。そう、突然そんなこと聞かれたら気になるじゃないの続きが。

 思わず探偵のような気分になってしまって、俺は布団から出、ついでに着替えてしまおうと向かいの壁に掛けられている制服のもとへ向かった。すると。

 

 上着の胸ポケットに、白い四つ折りの紙が。

 

「うわぁ、おったし・・・・」

 

 とりあえずパジャマのズボンを脱ぎながら、片手を伸ばして紙を抜き取る。あ、先に上脱がんとシャツがスラックスの裾にしまえんな、と思ったが時はすでに遅い。鏡の前、俺はパンツとパジャマの上着という一歩間違えたらお巡りさんな恰好で紙を開いた。

 

『願いを言葉に出せば、ある程度の事は叶う力をあげる』

 

 んんん?

 いや、はい?唐突にどうした、つかなんで俺や。まだ見もしないこの探偵ごっこの仕掛人に俺は問いかけた。なんで俺。そういうのってこう、決まりきったイケメン枠がやるもんやろ普通。こんな顔も成績も身長も普通な俺に?名字も京都府の中でトップスリーくらいには入るであろう中村だし。

 はいぃ?とジャケットをハンガーからとり、中にかけてあったスラックスを手にしたら、また出てきた。白い紙。しかも、ひっかけておいたネクタイの裏側の微妙な布地の折り返しのところにも挟んであるし。どうしてこう制服に集中砲火するんだよ。

 あぁあぁ、とさまよった挙句、とりあえず制服を着終えてしまうことにした。そこから読んだって遅くはないだろうし―――スラックス、シャツ、ネクタイ、ジャケット、と着ていく間にもさらに二つ見つかった。靴下の中に仕込むのは何か勘弁してほしかったのだけれども。

 見つかった順番に左から並べられた、4枚の紙。開く。やはり、明朝体。

 

『簡単なことだったらすぐかなえられる。難しい事ならそのきっかけを。』

『きっかけは人脈だったり物だったり様々。』

『特に貴方がこうなってることに理由はない。暇つぶし』

 

 「・・・・ッ、暇つぶし・・」

 いや、モブからしたらたいそうな役目だと思うのだけれど。にしてもなんか刺さるな、暇つぶしって。

 気を取り直して。この紙が言っているのはつまり、今俺には唐突に言霊の力――しかも結構強力なものが宿った、ということだ。言霊。口に出せば、なんでも願いが叶う力。いやね、ありえんやろと、打ち消したいのはやまやまなのだが。

 最後の一枚、ここに書いてあった言葉が嫌に現実味を以て俺に迫ってきた。

 

『きっかけを掴んでも失敗したら、そこで終了。お前はまたモブだ』

 

 お前はまたモブだ、と。はぁ、どこぞの誰かも知らん奴にモブと言われたで、俺。悲しいけど論題はそこじゃない。終了、か。ということは、ある程度簡単な課題ならば延々とクリアし続けられるのではないだろうか。

 俺、もしかしてモブ脱却、ワンチャン?

 本当にこんなことってあるのだろうか。

 

「つかなぁ、面倒だから1枚に纏めぇや・・・なんでわざわざ別の紙にしたん・・・」

 

 目の前に広げられた計6枚の紙。誰からのメッセージなのか単なるストーカーなのかは知らないが、まぁ大方父親のいたずらだろう。二人称がぶれぶれなところとかホントそれっぽいし。

「あー。たまにはチョココロネが食べたい・・・・」

 朝から甘いパンなんて食べる家風じゃないけど。言霊、か。なんか、珍妙なことを考え出したもんだよな、親父も。

 時計を見たら8時を回りそうだった。そろそろ朝ごはん食べて学校行かないと。教科書の最終確認をして、筆箱をカバンに放り込み。俺は、鏡の前で一つ変なポーズを決めてから1階のリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 その日の朝食は、チョココロネだった。

 

 

 

 

にゃー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・つうことがあったんよ、朝っぱらからどこの漫画の世界やゆー話で」

 昼休み。何故かこんな日に限って乗り換えをとちって結局遅刻ギリギリに教室に飛び込んだ俺は、よくあるモブのように1時間目を寝て過ごし、2時間目の宿題を忘れ、3時間目の物理ではまさかの問題に指名され死んだ。そして今、大変ベタだが友人たちに今朝の言霊事件のことについて話し、予想通り怪訝な顔をされている最中である。

「んー、案1。まだ中村は寝とる。そんで夢の中」

「案2、中村は自分の思い込みを現実やと思い込んでしまってる可哀そうな人」

「やから流石に起きてるっちゅうの。あと別に俺は可哀そうな人でもない。ゆーたやろ、朝和食しか基本出ないうちでチョココロネやったんやで?しかも、その謎い紙に書いてあった通り呟いたらその通りになったんや」

 思いっきり『頭どうかしてもうたんかな』といった顔をされた。どうも、当たり前だが信じてはもらえないらしい。俺はぐでぇんと片付けた弁当箱を抱いて友人たちにどうにかこうにか信じてもらおうと悪戦苦闘していたが、まぁ無理か。せやよなぁ、俺もだんだん本当に夢だったんじゃないかとか思い始めとるもん。思わず、ため息が出る。

 そんななか、友人の一人がこんなことを発案してきた。

「なんか簡単なもんならその場で叶えてくれるんやろ?せやったらやって見せろや、京都(こんな土地)ならもう何が起こってもおかしくないやろし、なぁ」

「あーー、でも・・・いや、せやな、別にほかの人に見られたらアカンだとかそういうんはないんやったわ、多分」

「ほなやってみぃ?ホントに何か起こったら信じたるわ」

「んあー、んなこと言うてもなぁ・・・・」

 んー、簡単なこと、簡単なこと・・・。きっかけを作らないとできないレベルの事じゃない、簡単なこと・・・。

「・・・御堂さんのスカートが風で捲れたりせぇへんかな」

 御堂さん・・・クラスの中でも大人しい方の秀才さんだ。スカート丈は明るめな女子たちと比べれば長いので、風で捲れるなんてラッキースケベは力学的に難しい気がするのだが。つか言っておいて我ながらサイテーだな、これ捲れなかったら単なる変態やぞ、俺。

 友人たち含め、一斉に黒板を消している御堂さんを見る。てか窓、閉まっとるやないか。あー、失敗したなぁ、もうちょい別の何かにすればよかっt・・・・ああああッ?

 その瞬間だった。

「いややなぁ、ほんま5月やゆうのに暑うて蒸すわぁ」

「窓開けたろー」

「あ、でも今日風強いで」

 窓辺でおしゃべりに興じていた明るめ女子たちの集団が、きゃっきゃ言いながら窓を開けた。

 

 思わず、体を起こす。

 

 びゅう、と瞬時生ぬるい風が吹き込み、プリントを宙に攫った。

 

 そして、白の中に舞う、御堂さんの、スカートの裾。

 

 紺の生地から覗く太ももが、やけに白い。

 

「きゃっ・・・!?」

 黒板けしを片手に上の方を消していた御堂さんは、小さく悲鳴を上げたものの当然裾を抑えられる余裕などなかった。うん、うん。

「・・・・見えたな」

「白やった」

「てかよく見たら御堂さんかわええな」

「うん・・・・」

「・・・・本当やったな、中村の」

「疑ってすまんかったわ」

「・・・・・うん」

 全員、阿呆面で見とれて?いた。まぁ、信じてもらえたのはいいのだが。教室めちゃくちゃだし、御堂さん顔真っ赤だし、はい。

 なんかごめんなさい。

 

 

 

 

::

 

 

 

 なんかこう、もう少しマシな使い道はないんだろうか。こんな残念過ぎる申し訳なさMaxな使い道で終わっていいのだろうか。しばし唖然としつつそんなことを話し合っていると、唐突に、とん、と後ろから肩をたたかれた。

 ん?呼び出し食らってた斎藤が帰ってきたんか?と振り向き。

 

 俺は、仰天して思わず盛大に舌を噛んだ。

 

「くr痛って、えっと、黒澤、さん・・・!?」

 

 噛んだ。マジ噛んだ。口の中めっちゃ血の味する。そこに立っていたのは、あの、黒澤薫だ。高校からこの冷泉大付属に入学した俺でもすぐにその名を知ったレベルの、学年一の美少女。1年生の時は別のクラスだったのだが、この度のクラス替えで何と、同じクラスになったのだ。

 うわぁ、近くで見るとマジ可愛いつかめっちゃええ匂いすんなぁ!!!俺のって言うとちょっと腹立つから俺ら?っつうけど俺らのようなゴミムシ的モブの集団にいったい何の用ですか、幻覚だよなこれ、うわぁぁわぁぁぁゎぁぁああああわああああ

「なぁ、ちぃと手伝ってほしいんやけど、ええかなぁ?」

 キェェェェェェェエエエエエエシャベッタァァァァァァアアアア!!!!!!!!美少女がシャベッタァァァァァアアアア!!!とか脳内で奇声を発しているのは俺だけではないだろう。だってみんな同じような顔しとるもん。みんな顔真っ赤であがあが言うとるもん、俺みたいに。とにかく、何か言わなくては、何か言わなくては!!と、震える声帯を叱咤し(声を出すときにどちらにせよ声帯は震えるのだが)、ぱっちりメイクにつやつやな唇が映えている黒澤さんに、俺は問いかけた。

「えっと、はい、全然手伝う、で」

 ぎこちないかもしれないがこれで合格!!合格にしましょう裁判官!!!この真っ白でふとすれば折れてしまいそうな麗しの姫君(ガチで)に対してのファーストコンタクトとしては随分優秀だったと思うんだ。もっとも、黒澤さんは普段あまり表情を変えないミステリアス美少女なことでも有名だったから、軽くうなずかれただけで終わったけれども。

 黒澤さんが頼んできたのは、廊下まで吹っ飛んでいったプリントの回収だった。御堂さんの長いスカートを捲るために吹いた風は想像以上のものだったらしく、廊下に出て隣の教室のあたりにまで飛んで行っていたらしい。

 ほな、よろしゅうな、と薄っすら笑みを浮かべて明るめ女子たちのもとに戻っていく黒澤さん。彼女たちも散らばったプリントを拾い始めていたので、じゃあ廊下行くか、と少女の余韻を感じながら俺たちも立ち上がった。

 

 

 はぁ。

 黒澤さん。可愛いし、優しい。でも背は高めで、スタイルもよくて、いつも聞きなれている京訛りですらキュートに思えてしまう。スカートは多分学校内でも1,2を争うくらい短いがそこから覗く足もとても綺麗で、あの短いコンタクトの間で、俺は完全にとどめを刺されてしまっていた。

 

「・・・俺、今日黒澤さんに告白する」

 

 気が付いたら、廊下の真ん中でプリントを持ちながら、俺はそんなことを呟いていた。いつもなら、そんなの無理だと打ち消していたけれども。ただ、遠くからその横顔を眺めているだけだったけれども。今日は、違う。あの訳の分からない言霊の力だってあるのだ。実際、今朝はチョココロネだったし電車内で見かけた痴漢もやめろと願ったらどこぞの女性が犯人を背負い投げして引きずっていき、解決した。そして御堂さん、まだ話したこともない貴女の加護だってある。今日ならいける気がするんだ。いや、むしろ今日行かなくていつ行くというのだ。

「俺は、行くで」

 良い返事ではなかったとしても、せめて、ありがとうと言われたい。貴女の笑顔がもう一度、見たいんだ。

 プリントを携えた野郎共が立ち上がり、うおおおお、と歓声を上げて駆け寄ってきた。

「いける!今日のお前なら!いけるで!」

「朝遅刻ギリやったけどいける!!」

「物理で黒板の前で醜態曝しとっても!!今日のお前は煌めいとる!!」

「どんなにモブだろうが府内名字ランキング3位の中村だろうが!!落とせる!!」

『黒澤さんを!!今日のお前ならいける・・・!!』

 仲間たちとの円陣、一介のモブたちの、輝くような笑顔。俺は、幸せだ。

そう、そうだ。一握りのイケメン枠なんかにやられてたまるか。俺たちモブが、黒澤さんを笑顔にするのだ。

「みんな・・・・みんな、ありがとうな。俺、黒澤さんに想いを伝えたいんや。もう、今日を逃したら二度とこんな機会あらへんと思うし。きっとやり遂げて見せるから。だから、頼む、今日だけは・・・応援してくれ」

『うおおおおおおおお!』

 感涙にむせぶ勢いで俺たちは抱き合った。出征する青年とそれを送り出す家族のようだった。励ますように肩をたたきあい、たまに脇腹に肘撃ちが入るのはなんか違う気がするが、ともかく俺は感動していた。こんなにも素晴らしい仲間たち―――素晴らしいモブに恵まれたのだ、これ以上何を躊躇う必要がある。待っていてください、黒澤さん。きっと貴女を、俺が迎えに行きますから――――

 

「何や盛り上がっとるとこ申し訳無いけど、もうちょい端寄り?通行人が若干引いとるえ」

 

 燃え盛る炎さえ一瞬で凍るような無駄に柔らかな声が、唐突に俺達の光を放つ栄光の団結を切り裂いた。思い当たった声の主に一様に振り向く。そこには一番の敵ともいえる、ある男が立っていた。

「くっ、出たなイケメン枠」

「出たな幼馴染ッ!」

「モブの敵!」

「何やの、そのイケメン枠て。同じクラスになったばっかやん、イケズ言わんと仲良うしたってやぁ」

 葉山凛。名前からしてイケメン枠。そして、彼はとてもよく有りがちだが目を背けるわけにはいかない事実、麗しの黒澤さんの幼馴染だった。何しろ幼稚舎のころから一緒だとかで、家同士での交流も深く、・・・・・言い出したらキリがないし勝ち目がなさそうな感じが蔓延してしまうのでここで終わる。ともかく、葉山は葉山でいかにも黒澤さんとお似合いなイケメンであり、この男の出現は俺たちの旅路においては大いなる脅威となる。

 色素の薄い灰色に近い瞳で、葉山が問いかけてきた。

「ちらと聞いてしもうたけど・・・何、自分薫に告るんやて?」

「・・・・ッ、聞かれていたか。ならば仕方があるまい、正々堂々俺と勝負s」

「この時間やと放課後か?屋上、行ってるように薫に伝えとこか」

「!!!?」

 いきなり何の前置きもなく話をぶった切られた。え?伝えとく?おっぉ・・・ほぉ!?

「なっ、どういう・・・俺たちがモブだからって馬鹿にしてもらったら困るで!俺は本気なんや、・・・それとも、まさかもうお前、黒澤さんと付き合うてて、だからそないに余裕なんか・・・・っ?」

 言葉がうまくまとまらないが、多分言いたいことは伝わったのだろう。軽く鼻で笑われた。

「な訳あるか、なんで俺と薫が付き合わんとならんのや。中村君らが盛り上がっとったのが聞こえたから、普通に伝えよかゆーただけやろ。せやなかったらどうやってそもそも呼び出すつもりやってん、麗しの薫姫に直々にお声がけとかできるんか、自分。教室でも常に謙虚でお静かになさっとるやないか、去年と違うて授業が静かで助かるけどな」

「うっ・・・・・」

 もろ心にぶっ刺さった。前髪を伸ばして分けていても似合うのはイケメンの特権だ。そして、東山育ちだというのがありありとう伺える落ち着きながらも洗練されたイケズ。同じ京都市民なのに何なんだ、この差は。これがモブとセレブリティの差なのか。やはり、モブはモブでしかないのか。

 熟考。黙考。そして、振り返り、目くばせ。

 

「すいません、よろしくお願いします」

 

 大人しく友人一同と頭を下げた。完璧な最敬礼×λ(λ=同志の数)。頭上から、神の言葉が降り注いだ。

 

「よっしゃ、嘘はつかんからな、俺は。放課後すぐ先に一人で行かせとくし、5分くらいしたら向かったってや。あんまり待たせるようやったら帰らすからな」

 

 

『っうおおおおおおおおおおッ!!!!』

 

 

 言霊の力は、やはり本物だったらしい。1日のうちにあこがれの黒澤さんに近づけるチャンスを貰えたのだ。あの黒澤さんが、俺の、彼女に・・?ヒョッォォォォオオオオオ!!!?

 

 かくして放課後、俺はこれからの人生でもそうないような一大イベントに臨むこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「俺はあくまでもお勧めはせんけど、な」

 

 

 

 葉山がこう呟いていたことなど、知らずに。

 

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